今、私たちは人類史上でも未曾有の危機に直面していると言われている。環境の激変によって生き物の存続そのものが脅かされているからだ。命あるものすべてが個性と文化と役割を持っているが、それらが地球上から姿を消しつつある。
 こうした危機意識を反映してか、“生きる場としてのコミュニティづくり”をテーマに、本年度より始まった「フィリップ モリス ジャパン 市民活動〜住民活動助成」には、全国各地から幅広い応募があり、内容も実に多様であった。その一つひとつは断片のように見えるが、概観すると「今、そこにある危機」が、眼前にはっきりと浮かび上がってくる。
 危機の多くは、人間と人間、人間と自然、人間と社会といった、あらゆる側面での”つながり”の分断から生じている。その結果、生命の質、生活の質、人生の質の悪化が進んでいる。
 今回の助成対象全体を俯瞰すると、“つながりの回復”のための〈試み〉(試行)に対して積極的に支援する形となった。選考においても、@自律と協働、A統合、包括、B循環、Cデザイン力がおもなポイントとなり、一過性のイベント的な〈企て〉は選外となってしまった。以下に、選考結果の詳細について触れたい。

 先ず、プロジェクトの立ち上げに対する準備助成(第1段階)については、13件が採択された。なかでも、新しい「こと」をつくりだす心意気(沖縄)、新しい「こと」を持ち込む気概(宮城)、困難な状況から立ち上げる勇気(東京、神奈川、大分)、夢をただの夢で終らせないロマン(北海道)、といったものが評価された。地域的に見ると、都市圏にかたよらず、北海道から沖縄までバランスのとれた結果となった。とりわけ経済、生活、文化の格差が開く一方の過疎地にも目配りしたものとなった。
 次に、プロジェクトの本格的展開に対する助成(第2段階)では、採択された5件は、いずれも問題意識も明快で、取り組み体制もしっかりした団体だった。特徴的なものをいくつか挙げると、地域の中で農業、観光、教育と細分化されていたものを「生活技術」の観点で統合化し、新しい地域産業を創出するプロジェクト(新潟)。医療・保健・福祉・労働といった縦割りを超えて、精神障害者の地域生活を包括的に支援するプロジェクト(京都)。資源の有機的な利用によって循環型社会をめざすコミュニティづくりのプロジェクト(佐賀)。など、いずれも社会的に成果が期待されるものが採り上げられた。
 ただし、どちらの助成においても、課題A(資源&志源)に比べて、課題B(サポーティブ・ハウジング=支援付き居住)に関する応募には計画面で弱いものが多く、選考上バランスを考慮せざるをえなかった。人が人として生きる。そうした当たり前の権利を「コミュニティとして支える」という考え方や実践が、日本社会には未だ定着していないのかもしれない。
 なお、全般的にいえば、市民、住民それぞれに思いはあるが、それをプロジェクトとして組み立て、展開する力量に不足しているものが目についた。また、新しい視点や独創的な手法などがもう少しあってもよかった。市民、住民主体のプロジェクトには、面白さ、楽しさ、インパクトは欠かせないからだ。そのためにも、自分たちが取り組んでいる専門分野だけでなく、隣接する分野の「知」にも関心をもつこと、そして、それらを自由自在に組み合わせたり、取り込んでいくことが求められるだろう。
最後に、今回の助成で、さまざまな〈試み〉が日本のいたるところで始まるが、そこから、合理的で説得力のあるシナリオをどう描いていくか、その構想力が問われてくる。
 助成対象となったプロジェクトの今後に大いに期待したい。

選考委員長 播磨 靖夫


今回の助成に関する選考は、以下の委員によって行われた。

選考委員一覧(五十音順、敬称略、○は委員長)

 安藤 周治  特定非営利活動法人ひろしまNPOセンター 代表理事
 桜井 陽子  財団法人横浜市女性協会・横浜女性フォーラム館長
 萩原 なつ子 武蔵工業大学 環境情報学部 助教授
 林  泰義  株式会社計画技術研究所 所長
○播磨 靖夫  財団法人たんぽぽの家 理事長
 水品 朱美  フィリップ モリス ジャパン株式会社 シニア カウンセル
 山田 実   菜の花プロジェクトネットワーク 事務局長




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