「立ち上げ助成」、「展開助成」の選考を終えて

選考委員長 播磨 靖夫

はじめに

 現代社会は、生きにくい社会であり、希望のもてない社会であるといわれている。将来に希望をもてる人とそうでない人の二極化が進んでいるからだ。誰もが希望を手に入れることがむずかしいのかも知れない。しかし、“生きにくさ”を生みだしている根源を突きとめ、そこから根拠のある希望を組織することによって、将来に希望のもてる「生きやすい社会」をつくることは可能であるはずだ。今年の選考を終えて、そんな確信をもった。

「立ち上げ助成」について

 2005年「立ち上げ助成」については、本年3月1日より4月20日までの公募の結果、全国各地より302件の応募があった。その内訳は次の通りである。
 先ず、課題別としては「一般課題」が247件(82%)、「特定課題」は55件(18%)であった。次に分野別には「福祉」78件(26%)、「まちづくり」65件(22%)等。地域別には、東京42件(14%)、北海道25件(8%)、神奈川24件(8%)、大阪19件(6%)であった。そして、組織形態別には「NPO法人」が133件(44%)、「任意団体」は157件(52%)であった。

 今回採択された助成対象は、初めは小さな希望かも知れないが、やがて根拠のある希望になる可能性をもっているものが総じて評価された。採択された10件を分類すると、@自律性の回復、A多様性の回復、B関係性の回復に分けることができるだろう。これらは近代化が進む中で日本社会が失ったものを取り戻す営みといえる。

 「食」と「アート」でインクルーシブなコミュニティの創造をめざすプロジェクト(静岡)、豊かな自然と相互扶助の「アイランド・セラピー」のもとで精神障害者の拠点づくりをする与論島のプロジェクト(鹿児島)。これらは、他者との関わりの中で自律的に生きる場を構築する取り組みとして注目された。さらに、DV被害者の母子がシェルター退所後に地域で生活することをケアするプロジェクト(大阪)、地域在住の外国人女性が生きるための技術、資格の取得を支援するプロジェクト(埼玉)も自律的に生きるためのサポートとして評価された。いずれのプロジェクトも自律性の回復のために他者への配慮を中核としたコミュニティづくりが必要であることを認識している。この“他者への配慮”は、新しい「公益」となるべきもので、今後の展開に期待したい。

 子どもたちを“主体”とするまちづくりの新たな試み(千葉)、どこの組織にも属していない20代の若者たちが中心となって新しい空間づくりをする“まちのこし”プロジェクト(沖縄)、リタイアしたシニアたちが農業の新しい可能性に挑戦するプロジェクト(静岡)は、ジュニア、ユース、シニアといった、これまで“主流”から排除された多様な存在の参入によって、閉塞状態に陥った問題解決のきっかけをつかむ楽しみなプロジェクトとして評価が高かった。

 地震のケアは、当初は心のケアが必要だが、時間が経つにつれ、生活のケア、関係のケアへと移行する。「福岡西方沖地震」の被災者の心のケアをするアート・ワークショップ(福岡)は、今の時点で必要なものだが、プロジェクトとしてコミュニティ・ケアへと発展させてほしい。同じ地震関連で言えば、「阪神・淡路大震災」をきっかけに生まれた支援グループ(兵庫)は、復興まちづくり10年の経験をいかした新たなコミュニティ開発に取り組む。地震によって分断された地域の“関係性の回復”をめざすものだか、“コミュニティ・ディベロプメント”の中に“カルチュラル・ディベロプメント”の発想も取り入れてほしい。また、「中越地震」をきっかけに、寒冷地の冬季災害に対して自分たちで出来るところから取り組もうとするプロジェクト(北海道)は、ややもすると“行政頼み”となりがちな地域防災に対する人々の意識を変える契機ともなることから、その成果や経験を地域全体へ拡げていってほしい。

「展開助成」について

 2005年「展開助成」については、昨年の助成(準備助成)で対象となった12件のうち、11件からの応募があり、選考の結果、6件が採択された。採択されたほとんどが、他者への配慮と正義をめざしたプロジェクトといってもよい。生きやすい社会とは、ケアと正義のある社会だといわれる。ケアとはふつう介護、介助ととらえられがちだが、他者への配慮のことである。他者とは人間だけではない。異文化、動物、植物、自然をふくめた環境も他者である。正義とは不公平、不公正、不平等をなくすことである。私たちの社会では、公正、公平、公共とは何かが見えなくなっている。それが生きづらさにつながっている。

 今回の「展開助成」に関する選考においては、昨年の助成による取り組みを評価したうえで、目標、手法、実現性、独創性、参加性、発展性を主な基準に審査を行った。とりわけ、現状を分析し、目標を定め、優先順位をつけ、説得力のあるシナリオをつくれているか、戦略的なアプローチがポイントとなった。

 「たきどぅん」(沖縄)は、竹富島の新交通システムを考えるプロジェクトから“フィールド・ミュージアム”へと夢がふくらみ、「スローライフ」そのものを観光にしていこうというオルタナティブな提案が注目された。経済成長がなければ、私たちは豊かになれないのだろうか、という問いかけは重い。

 「北の森と川・環境ネットワーク」(北海道)は13年かけて失われた森を再生しようというプロジェクトである。壮大な構想と熱い情熱に心が打たれた。生物の多様性を維持しようとする決意は、時代の精神である。だが、それは人間の欲望と生物的自然への感性に目覚めたまなざしとが対峙することである。コミュニティの共感のなかで、それを乗り越えようとする大きな視点がある。

 「自立生活サポートセンターもやい」(東京)の“アートとコーヒー”をキーワードに新宿のホームレスや独居者のコミュニティをつくろうとするプロジェクト、「アートプラネッツ・みやぎ」(宮城)のアートによる障害者のソーシャル・インクルージョンのプロジェクトは、経済・効率主義の現代社会のなかで、一見役に立ちそうもないと思われがちなアートをとおして、人と人とのつながりを回復させようという面白くて野心的なプランに期待が集まった。

 「カラカサン」(神奈川)は、離婚や暴力を受け、困難な状況にある移住女性のセルフヘルプグループであるが、立ち上げの実績が高く評価された。女性とその子どもに寄り添いながらエンパワメントしていこうという姿勢は、コミュニティのなかで共感をもって受け入れられるだろう。

「work-waku都留」(山梨)のエゴからはじまるまちづくりは学生プロジェクトで、若者らしいアイデアと行動力が好感を呼んだ。エゴから公共をめざす“大きな実験”として注目したい。

おわりに

 現代は「改革」が声高に叫ばれているが、今回の選考を通じてわかることは、本当の改革は、上からなされるものでなく、人間の自治能力を高度化することである。今後の各プロジェクトの展開とその成果を大いに期待したい。
 今、日本の「市民活動」、「住民活動」は“IT”時代を迎えている。社会が急速に変化する中で、専門分野にこだわる“I字型活動”も大事だが、専門を越えて横断的に取り組む“T字型活動”の重要性が増してきているからだ。そのためには、福祉・環境・文化・教育などのこれまでの枠組みを越える知=「越境する知」が必要となってくる。そうした意味でも、次回以降、新しい「知」の創造をめざす研究系のプロジェクトがもっと増えてほしいと期待している。


今回の助成に関する選考は、以下の委員によって行われた。

選考委員長
 播磨 靖夫   財団法人たんぽぽの家 理事長

選考委員(五十音順、敬称略)
 安藤 周治  特定非営利活動法人ひろしまNPOセンター 代表理事
 桜井 陽子  財団法人横浜市女性協会 事業本部長
 萩原 なつ子  武蔵工業大学 環境情報学部 助教授
 林  泰義  株式会社計画技術研究所 所長
 水品 朱美  フィリップ モリス ジャパン株式会社 シニア カウンセル
 山田 実  菜の花プロジェクトネットワーク 事務局長





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