展開助成 選考総評

選考委員長 播磨 靖夫

 日本社会では、今、個人と社会の関係が問い直されている。社会は個人を守り、個人は社会を守る、というのが本来の姿だが、それが破綻しているからである。個人と社会をつないでいた旧来の地縁型、社縁型の中間組織が弱体化し、中間領域が縮小しているのが原因と考えられている。
 「生きる場としてのコミュニティづくり」をテーマにした今回の「展開助成」に11件の応募があり、選考の結果、助成対象に7件が選ばれた。実施団体のほとんどがNPO・NGOといった新しい自発的な中間組織で、「立ち上げ助成」以来、それぞれが課題解決に努めながら、コミュニティの再生という中間組織の役割をはたすまでに成長している。これは、このプログラムの成果でもあるが、ここから中間領域を見直し、再構築へと展開してほしいものである。

 その代表格が、阪神・淡路大震災後から神戸のまちの再生に取り組んでいる「まち・コミュニケーション」と沖縄・那覇市の中心地の広場を拠点に人と社会のつながりの回復をめざすNPO法人「まちなか研究所わくわく」である。地域住民の複雑な利害と要求を巧みに調整しながら、まちの新しい仕組みづくりを提案しているのが高く評価された。二つの団体は若い世代が中心となって活動しているが、地域の関わりのなかで考える想像力、他者の成長を喜ぶ共感能力、そして信頼のなかから生まれる知(ローカル・ナレッジ)のデザイン力から、新しい社会事業が生まれてくる可能性が高い。

 2006年4月に施行された「障害者自立支援法」は、障害のある人たちの支援のあり方の大幅な改変を迫っている。当然のことながら、今、現場は大混乱のなかにある。次々と表出する課題と向き合うなかで、“後退”の波に押し流されず、障害のある人たちの「生きる場」づくりに果敢に取り組んでいるのが、埼玉の社団法人「やどかりの里」、鹿児島・与論島のNPO法人「つどいセンター海を支える会」である。
 「やどかりの里」は、日本の福祉に障害のある人たちの居住支援が少ないなか、ハウジングサポート事業のシステムづくりに取り組む。システムに合わせるのではなく、一人ひとりに合ったシステムをつくるという考え方に共感を覚えた。
 また、社会資源の乏しい離島で障害のある人たちの居場所を確保し、維持することは多くの困難をともなう。「つどいセンター海を支える会」は、立ち上げ助成で精神障害のある人たちのグループホームを開設したが、さらに作業所を併設したものに発展させようという計画。世の中にはみんなが敬遠してうち捨てているけれども、誰かがやらねばならない大切なものがあるはず。そういったものを率先して引き受ける生き方は尊い。それを実現するためにも島の内外のネットワークとコミュニケーションできる力がほしい。

 社会の歪みがより弱い者に押し付けられ、底辺に沈澱した層は犯罪という形で反逆する。どうすれば防ぐことができるのか。「埼玉ダルク支援センター」は、薬物依存症のリハビリテーションのひとつとしてナイトケアのプログラムをさらに充実発展させる。障害者自立支援法へ移行するなかで、これがどこに位置づけられるか判然とせず、当面自主運営で取り組まなければならない。司法との連携はもちろん、自己治癒力や自尊心を高めるアートの分野との連携を勧めたい。
 アートの語源には「創意」とか「技」というものがある。そこからアートは「困難な課題を巧みに解決し得る熟練した技術」と考えられるようになった。
 静岡のNPO法人「クリエイティブサポートレッツ」は、食とアートを通して、誰もが排除されることなく主体的に生きてゆける豊かなコミュニティづくりと取り組んできた。さらにそれを発展させ、地域とのコミュニケーション、市民とのコミュニケーションをはかる事業を展開する。外国人がたくさん居住している地域の特性をいかした、多文化共生の実験に注目したい。実験のカギは、他の分野とコミュニケーションできる総合的なデザイン力だろう。

 まちをつくるということは、道路や町並をつくるだけでなく、そこに生きていく人びとが人間らしい心を持ち、おたがいに協力し合いながら暮らしていけることが重要である。千葉の「NPO子どものまち」は、商店街を舞台に子どもたちが主体となって仕事に就き、他の人びとに尽くす機会を持つことの大切さを学んできた。こんどのプロジェクトでは、子どもの参画による交流拠点を開設し、まちの文化や伝統を新しく見直し、再生させ、次の世代に伝えていくシステムづくりをめざす。人と社会のつながりのなかで、子ども一人ひとりが素晴らしい人間として成長できるようなプロジェクトへと発展しつつある。

 「大事なことは主流にならぬことだ。傍流でよく状況を見ていくことだ」といったのは民俗学者、宮本常一である。いつも光のあたるところにいると、多くのものを見落としてしまう。その見落とされたもののなかにこそ大切なものがある、という警告である。委員一同、目をこらし耳をすませて選考にあたった。


今回の助成に関する選考は、以下の委員によって行われた。

選考委員長
 播磨 靖夫   財団法人たんぽぽの家 理事長

選考委員(五十音順、敬称略)
 安藤 周治  特定非営利活動法人ひろしまNPOセンター 代表理事
 桜井 陽子  財団法人横浜市男女共同参画推進協会 事業本部長
 萩原 なつ子  立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科 助教授
 林  泰義  株式会社計画技術研究所 所長
 水品 朱美  フィリップ モリス ジャパン株式会社 シニア カウンセル
 山田 実  菜の花プロジェクトネットワーク 事務局長


   


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