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今年で4回目となる市民活動の“助成担当者”交流会が、去る7月21日(金)午後、中央労働金庫の協力を得て、都内にて開催されました。全体テーマは、前回に引き続き「受け手も育ち、出し手も育つ助成とは?」としつつ、“適切で効果的な選考のあり方”に焦点を当てて行われました。

●第1部 基調講演
「助成担当者の専門性〜その資質と要件」

第1部は、「助成担当者の専門性」について、(財)セゾン文化財団常務理事の片山正夫さんの講演の後、日本国際交流センターチーフ・プログラム・オフィサーの伊藤聡子さんを聞き手に迎え、テーマについて掘り下げました。
片山さんは、助成担当者が担う業務の3つのタイプ「事務職的」「コーディネーター的」「研究者的」それぞれに、I.助成担当者の業務、II.要求される能力、III.資質要件を示すマトリックスを使って、助成担当者の専門性とは何かを説明されました。


(作成:(財)セゾン文化財団・片山正夫) *図をクリックすると拡大されます

まず、I.助成担当者の専門性について、<事務職>は、申請受付、選考プロセスにおける選考委員会のお膳立て、助成先との連絡等のいわゆる事務作業を行う部分です。<コーディネーター>は、人と人、人と情報、人と知識を結びつける活動(具体的には、対助成先へは技術支援等の助言など、助成分野に向けては助成成果の普及、対社会に対しては助成団体がどういう考えでどのような助成を行っているかを伝える広報的仕事)を行う部分です。そして<研究者>は、助成プログラムを開発し、その運営・評価を行う部分です。そのためには対象分野のニーズ、問題点の調査やその分野に他のセクターがどんな支援をしているかという調査を行う必要がある、との指摘を行いました。
旧来、財団職員は素人であるから専門家に選考をゆだねる、公平中立の選考のためには財団内部ではない外部の人間に任せる方が良いという理由で、職員の仕事は事務職ラインのみが多かったが、プログラム・オフィサーという肩書きを用いている財団は、職務が事務のみではないという姿勢を強調しているのであろう。担当者の専門性とは何か、必要なのか、どこまで関わるべきなのかは一概に言えないとのことでした。
次にII.要求される能力ついては、「常識とバランス感覚」で、これらは一定の訓練によって得られるものということでした。具体的には、対人関係能力(広いネットワーク、深いネットワークを作れる能力)、マネジメント力(段取りよく効率的に遂行していく能力)、専門分野の知識(その分野に関してきちんと話ができる能力、また解決のためにどこに人と情報があるかを知っていること)、企画・構想力(これは研究者・コーディネーター的仕事に必要なもので、与えられた命題に対して仮説を立てられることが重要)が挙げられるとのこと。
そしてIII.資質要件ですが、これは生まれ持ったものであり、しかし大変重要な要件であると言います。利他的精神がある、誠実である、探究心、好奇心がある、反骨精神がある、問題意識が高い、人との交わりが好き、フットワークが良いなどといった資質は、なかなか訓練や教育では身につくものでなく、そういう意味では向き、不向きというものはあるとのことでした。


(第1部 基調講演)
(財)セゾン文化財団 常務理事 片山正夫氏


続いて伊藤さんから専門性ついての質問がなされました。
まず、片山さんの場合、どのように勉強をしてきたのか。また、職員の採用等について隠れた資質をどのように見つけるのか。これに対して片山さんは、採用前に専門的な教育(セゾン文化財団は、現代演劇・舞踊を支援)を受けた人間はおらず、仕事をしながら勉強をしていく。どのように勉強をするかというと、とにかく「外に出る」ことを奨励していて、そのための時間と金は提供することを当初から明らかにしておくと言います。また採用に際しては、III.資質要件を重視しているとのことでした。
次に、第2部に関連して、職員と選考委員の関係をどのように考えるかという質問がなされました。これに対しては、選考委員会に丸投げしないし、職員だけでも決めない。その中間のありかたを探っているということで、片山さんのところでも試行錯誤を重ねているとのことでした。また長く同じ事業をしていると、ものの見方が固定してきてしまうので、常に外部の目を入れていく必要があるという点を挙げられました。

●第2部 パネル・ディカッション
「適切で効果的な選考のあり方〜事例を通して」

続く第2部では、「適切で効果的な選考のあり方」について、特徴的な選考方法を行っている助成事業の担当者3人によるパネル・ディスカッションが行われました。
冒頭、コーディネーターの渡辺元さん(市民社会創造ファンド事務局長)から、「選考体制・方法に関するパターン別分類」について、公募・非公募それぞれの企画・開発から選考までのプロセス、選考実施主体(選考委員会・事務局・外部委員・投票)によるパターン、選考方法(書類・プレゼンテーション・面接、それぞれ公開・非公開)のパターンなどについての解説があり、パネル・ディスカッションの前に選考法について概念整理がなされました。そして、適切な助成を行うには、助成プログラムの趣旨に合致した選考方法が重要であると指摘されました。

これを踏まえて、鶴ヶ島市社会福祉協議会の牧野郁子さんからは「ボランティア・市民活動団体助成金交付事業」の公募・公開審査による選考事例を、中央労働金庫の山口郁子さんから「中央ろうきん助成プログラム」の公募・NPO支援組織活用型選考について、笹川平和財団の茶野順子さんからは「笹川平和財団助成プログラム」の非公募・計画型選考について、それぞれ報告が行われました。
鶴ヶ島市の「ボランティア・市民活動団体助成金交付事業」については、牧野さんから、ビデオを交えての紹介があり、特に公開審査に子供も投票を行えるという実験的な(画期的?)選考方法について説明されました。なぜ子供を審査に参加させるのかという理由は、子供も地域を支えている一員であるということを子供自身にも認識してもらうということと、子供たちが入ることによって、審査会での質問がさまざまな角度から出るようになったり、子供自身も大人がどういう形で地域を支えているのかを知ることができるという効果があるということでした。
さらに公開審査そのものの効果としては、審査委員と実際の質問のやり取りを行うことで、団体自身も大いに勉強になり、さらにプレゼンを経験することによって団体自体のPRの力を身につけることができることを挙げました。

次に「中央ろうきん助成プログラム」における公募・NPO支援組織活用型選考について中央労働金庫の山口さんから紹介がありました。選考を行うにあたって、対象地域(関東地域1都7県)にある各NPO支援組織にも選考に協力してもらうことに特徴があります。これは、助成に際して地域を見える人たちの目が必要であり、かつ公募など広報の面でも地域の支援組織の協力が必要であるからとのことです。このことによって、労働金庫としもそのような組織と日常的なつながりが出来、共同でセミナーを開くなど助成以外の面でも相互に協力し合う関係が出来る効果が出てきました。
今後の課題として、地域のNPO支援組織が一つではなくなりつつある現在、他の類似の組織とどのような関係を構築していくのかを考えていかなくてはならないのではないかとのことでした。また、このようにして地域の支援組織との関係性が深くなればなるほど、次の担当者をどう育てていくのかが難しくなってくると仰ってました。なお、この助成プログラムは、企画段階から市民社会創造ファンドと共同で時間をかけて作ってきたことを踏まえ、企画とは助成の受け手に対してそのプログラムが何を目指しているかを明確に示せるかが重要であり、選考はその手段として、後からついてくるものとのことでした。

最後に笹川平和財団の茶野さんから、非公募・計画型選考について笹川平和財団だけではなく、米国のフォード財団の例も引きつつ説明がありました。ここでいう「非公募」とは日本の財団で一般的に行われているような一定書式による公募はしていないということであり、応募申請を全く受け付けないということではない。また、「計画型」というのは助成対象となる事業を助成先の関係者と始めから一緒に考え作っていくという意味であるということです。この場合、選考の基準は、不特定多数の利益に資するものであるどうかではなく、財団あるいは助成プログラムの目的(ミッション)に合致するものかどうかであり、内容の優劣の比較ではなく、どちらがより財団の目的にあった事業であるかで決めるということでした。


(第2部 パネルディスカッション)

これらの報告の後、フロアからの質問も交え、ディスカッションがなされました。特に、
人件費助成の考え方、助成対象先とのその後の関係の持ち方(フォローの方法)、事務局の関与の度合、広報の方法、成果の求め方などが話題となりました。

(実行委員 湯瀬秀行・記)



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